マンション向け高圧一括受電の不思議とビジネスモデル

今回マンション系業者の高圧一括受電の提案経過(注1)をみるに、普通の商談や契約とは随分と違うなと思いました。基本が電気設備の資産入替えであり、それは高額で長寿命の設備です。一旦入れたら最後、後で別のものに変えることはおいそれとできません。
一方、私たちが着目するのは業者が提供するサービスであり、適時によりよいものに選択可能なものであることです。それゆえ、電気設備というハードについてもそのライフサイクルに渡り、私たちが不安なく選択できるような情報が提供されるべきでした。

残念ながら、業者の説明会では、そうした情報の開示はせずに、現時点とは異なる電気料金で比較したり、小売り電気事業者の価格体系を実際よりも高くみせたりして、自分たちの優位性を誇張する説明をしていました。(その時点では説明に納得していました。後日に自分であれこれ調べていたら、あれれ、変じゃん!と気付いたのです。(補注) )
事実と異なる説明をすること自体、不信頼を呼び起こすわけですが、それは社員の個別問題として無理に(^^;;さておいたとしても、開示がないために、以下に”怪”と述べる不思議事項が残ります。

この不思議さ、あるいは不合理性/不便性は、今のマンション向け高圧一括受電のビジネスモデルに由来するものと思われます。
しかし、これは、一部でルール化されている資産の有償譲渡の仕組みを整備することで解消し得ると思われます。この新たなビジネスモデルは、利用者優先の故に、他の業者との競争市場においても有利なものになるとも考えられます。

(注1)業者説明会があり管理組合総会で導入議案が提出された。しかし、大変粘り強い反対意見を受けて再検討のため総会での決議を棚上げした。その後に理事会では検討を重ね、アンケート集計の結果、組合員全員の賛成は困難と判断したとして、導入議案を取り下げた。
(補注) 前項「私のマンションの方だけ(汗): 意見書と質問書について」の中で、「 高圧一括充電見書2017年6月22日」(PDFファイル)で詳細を記載しています。

1. 削減率が一律5%の怪
どの高圧受電業者をみても、まるで業者間で協定しているが如く、料金の削減率はおしなべて5%となっています。
一部の業者はCATV業者と提携して更に+3%の削減をうたっているが、それは提携業者の負担であって、電力料金の原資では変わらずに5%のままです。
なぜ、7%とか11%がないのか大変不思議です。

2. 10年縛りの怪
契約者がすぐにやめた場合の違約金は15万円/戸としているので、100戸のケースでは、1500万円が撤去も含む設備総費用になると想定されます。初期費用ともみれますね。
この新規変電設備費用1500万円を10年以内で回収するために10年縛りがあります。しかし、私たちのように共用部や専有部が元々高圧受電設備である場合には、既存設備のままで使えるので、大幅な費用低減が見込めます。
つまり、初期費用回収がもっと早くできるから、縛り期間を短縮できるともいえます。
それから、費用回収後を考えると、その後の割引率をアップできるはずです。
しかし、業者からは、そういう可能性や縛り期間短縮や割引率アップの話しは全然出てきません

東電から業者への設備変更/移管内容はブラックボックスだから、契約者に開示する必要はないとする立場もあり得ます。しかし、経営の透明性や適性利潤、電気設備は住民生活の基本設備である、という面から考えると、「10年縛りとなっております。」だけで、契約者の理解と了解を得ようとするのは、図々しいと思わざるを得ません。

3. 10年後の不明さの怪
10年後に契約者の割引率はどうか、選択肢がどう変わるか、その際にどのような費用が発生するかなど、業者からは一切提示されず、単に契約延長期間のみが明示されています。

4. 自家用工作物を含む高圧一括受電の怪
マンション共用部の変電設備は、高圧受電の自家用電気工作物として管理組合所有であるのが大半です。
高圧一括受電業者は、共用部と専有部の一括契約とし、共用部/専有部のどちらを削減するかを契約者に選ばせますが、共用部の削減を行う場合は専有部を人質にされたことになります。
実は、一括業者によらずとも、高圧電力業者との契約により共用部単独の費用削減は充分にできます。それも年単位でできます。その検討もせずに、削減比率を多少あげるために専有部を長期にわたり人質にしていいのかという話です。
逆に、専有部を費用削減するとした場合には、共用部の大きな削減利益を暗黙裡に業者に全部吸い取られる事になります。共用部設備は自分の持ち物なのに削減利益は人に取られ、設備の保守費用は従来通り出さないといけないというアホな話になりかねません。(注2)
一括業者には不都合なことですから、業者から出てくる話しではありません。

(注2) 新築時から業者による一括受電の場合はその共用部設備も業者資産です。よって、業者がその保守費用を出します。住民に設備保守の義務はありません。

5. マンション系業者の怪
高圧一括受電業者がグループ会社にあれば、当然だが、同じグループ内の管理会社は、その業者を管理組合にプッシュしてくるでしょう。しかも、業者が、実はアフターサービスの元締め会社、つまり、サービス統括本社であれば、その配下にある管理会社が、その業者を一般の外注業者のように扱う事などできるはずもありません。
受電業者の相見積りを管理会社経由でとるなら、相見積りの意味をなさなくなるでしょう

会社側から見れば、グループ内企業による囲い込みを通じて継続的にマンションから独占的な利益を得ていこうとするのは、いわば、会社の使命です。一括受電に限りません。そのために、管理会社の提案にすぐ乗ってくれる管理組合はありがたいといえます。更に住民の多数がいつもよきにはからえと言ってくれれば大助かりです。そして、アフターサービスに関わるグループ関連会社から、この管理会社は優良だと評価されます。

ついでですが、今の管理会社は今年春のグループ会社間の組織変更について何一つ私たちマンション住民に公表していません。理事会にはお願いしたのだが、彼らも管理会社に公表を指示していない。管理会社が変更の対象なんですけどね。
住民は余計な事を知らなくていいのよ、という勝手な判断は、非民主的な愚民政策とも言えるし、誠実さに欠けるのは言うまでもありません。

6. 「怪」のない、利用者のための、一括受電ビジネスモデルの提唱
有償譲渡(注3)の仕組みを、東電と高圧一括受電業者/マンション管理組合間だけでなく、受電業者間にも適用して、業者から業者へ設備資産を引き継げるか、または、リースできる仕組みを構築した場合には、契約者は業者と長期契約を結ぶ必然性はなくなります。
それは、設備回収費用をその業者との契約期間内に全部支払う必要性がないことも意味します。例えば、回収期間を15年とした場合で、業者との契約が1年間ならば、契約者が業者に支払う回収費用は1/15となります。そして、業者を変えても、変電設備などのハードはそのままで変わらないから、撤去/廃棄/新規設置などの無駄な初期費用が一切なくなります。
通常変電設備の通常の耐用年数は約30年といわれ、税法上の減価償却に関わる法定耐用年数は15年となっています。
もし、マンション築後5年程度で電気設備を撤去/新規入替えするとしたら、明らかに大変無駄な、勿体無いやり方といえます。
現状の割引率5%が合理的配分であると仮定した場合(注4)の計算を下記に示します。

解約金額 15万円/戸 100軒 →高圧受電設備の総費用 1500万円とします。
電力/電灯料金の価格差 -30%とし、各戸の月額電灯料金を8000円と仮定します。
差額から得られる年間金額は、8000×0.3×12×100= 288万円/年/100戸となります。
その配分は、
- 契約者割引 5% 48万円/年
- 維持、メンテ費用 50万円/年
- その他諸費用 40万円/年
以上から残額は、288-48-50-40=150万円/年
よって、設備総費用 1500万円を10年でカバーします。

しかし、新方式では費用回収年数は耐用年数以内で任意にできますから、
総費用1500万円を法定耐用年数15年で分割すると100万円/年となり、契約者分は48+(150-100)=98万円、約10%の割引率となります。この場合、法定耐用年数以降では「残額」が全部残るので、契約者分は、48+150=198万円 となり、約20%の割引率に変わります。
耐用年数30年で総費用を分割すると50万円/年となるので、契約者分は48+(150-50)=148万円で、約15%の割引率となります。

以上のように、実質縛りなしの方式であるのに、電力-電灯料金差額分による割引率は、10% ~ 20%となることが見えてきます。
このモデルは実際上製造工場や病院などの一般高圧需要者とほぼ同じ土俵に立つので、更に高圧受電としての通常の割引を契約者は期待でき、トータルで15% ~ 30%の割引となってもおかしくありません。
もちろん、+J:COM割引があってもいいのです。

家庭用電灯料金ではなく電力料金を用いる一般企業/高圧需要者は、当然ながら、変電設備は自分の資産であり保守管理は自身で外注委託してきました。
マンション向け高圧一括受電でいろんな「怪」があるのは、こうして一般企業が活用してきた電力料金を、無理して「アウトソーシング」しているせいとも言えます。
設備の所有移管に融通性があれば、契約者の負担を減らし、業者を市場競争の中に置くことができます。
なお、現在の欠陥を正すために一般の小売り電気事業者と同じく消費者保護法を適用して、透明性を確保する必要はあるでしょう。

今の、「怪」があり硬直的といえる高圧一括受電ビジネスモデルには、未来はないのではないでしょうか?

(注3) 有償譲渡
TEPCO 「マンション等の高圧一括契約化に伴う当社供給用設備利用のご案内」で記載する手段です。設備の残存簿価などで譲渡価格が算定される。
(注4) 本当に合理的かどうかは、知りません。たとえ、本当でなくてもここまでできると、考えて下さい。